翁文静(九州大学 アドミッションセンター)
講師感想と報告
執筆者は2019年8月28日の9時から16時まで、ワークショップ Dの「外国人留学生募集戦略と大学入学資格評価」に参加しました。このセッションは、海外からの直接出願の促進など、より高等教育の国際通用性を高め、多様な国・地域から優秀な留学生を受け入れるための方策を学ぶことを目的としています。ワークショップ Dの講演テーマ及び講師の一覧を表1にまとめます。
表1 講演テーマ及び講師一覧 |
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講演テーマ | 講師 |
①外国学歴評価と 大学入学資格判定の考えかた |
白石 勝己 (公益財団法人アジア学生文化協会 理事長) |
②中国留学サービスセンター(CSCSE) 海外学歴学位認証事業 |
日本部門 魏涛 |
③Mission (nearly) Impossible | 近藤 祐一(立命館アジア太平洋大学入学部長 オンライン参加) |
④早稲田大学における海外リクルーティング とアドミッションの方策 |
赤松 茂利 (早稲田大学国際教養学部) |
⑤学歴・入学資格判定の作業手順について | 星 明廣 (公益財団法人アジア学生文化協会教育交流事業部長) |
以下、各講演の概要、参加者の質問/回答などを簡単にまとめ、執筆者も含めて参加者の感想を述べます。
①外国学歴評価と大学入学資格判定の考えかた
この講演では、白石講師が文部科学省の公布した日本における(外国人の)大学入学資格について詳しく解説した上で、世界的な潮流(東京規約、リスボン認証条約、ISCED)を紹介しました。講演の最後に、日本における資格評価のあり方についても検討しました。
白石講師の講演に対して、会場から複数の質問がありました。一つは、一橋大学の太田浩さんからの「日本の大学ではどの程度、APの単位認定がされていますか」という質問です。回答は「早稲田大学、立命館APUを含め日本の大学では、APの単位認定がなされていないであろう」ということでした。太田浩さんは研修後「学士課程を修めるためには、最低4年間在学しなければならない(飛び級制度がない)という制度面の制約と、入学時(一年次)に、単位認定をするということが一般的でない日本の現状から、APの単位認定がなされるようになるまでは時間がかかると感じました。まずは、大学も飛び級できるようにすることが、グローバル化への対応からも重要だと思います」とコメントしました。
②中国留学サービスセンター(CSCSE)海外学歴学位認証事業
CSCSEの日本部門の担当者である魏講師は、以下の4点について講演しました。1. CSCSE海外学歴学位認証事業について、2. CSCSE日本学歴学位認証の紹介、3. CSCSE海外学歴学位認証のプロセスについて、4.日本の学位を認証する際の問題点。
魏講師の講演の中でもっとも印象に残ったのが、「CSCSEにおける海外認証総数のうち、日本の認証数は4位を示していますが、対応が遅いため(協力しない大学もある)、日本の大学の卒業生が就職や何らかの国家試験を受ける際に、大変困っています。さらに、卒業証明書を偽造する悪徳業者もこれをチャンスとして捉え、大量な偽造証明書を作っています」ということです。そのため、魏講師は講演の最後に、「日本の各大学と卒業情報確認の契約を結べることを期待しています」と訴えました。それに対して、会場が湧き、参加者から様々な質問がありました。表2ではいつくかの質問及びその回答をまとめます。
表2 質問及びその回答 |
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質問 | 回答 |
文部科学省を通して各大学に CSCSEの存在と契約の必要性を知らせたら良いのではないか |
CSCSEが文部科学省に問い合わTable 2 Questions and answersせたが、各大学に任せるという返事 |
契約を結ぶなら、 費用はどれくらいかかりますか |
日本の大学は無料ですが、学生が利用する際に、一件350元かかる |
大学のどの部門と契約を結びますか | 大学全体 |
どのようにすれば契約を結べますか | 魏講師に問い合わせ twei@cscse.edu.cn |
執筆者は基本的に魏講師の提案に賛成ですが、日本の各大学と卒業情報確認の契約を結ぶことを考える際に、いくつかの問題点があると思います。一つは、日本の大学にとってのメリットは少ないように思います。中国のCSCSEも含め、複数の海外学歴学位認証部門/センターで共通な契約、書式があれば、事務的な作業が減るので、歓迎されると思います。もちろん、卒業生のため、また、自大学の名誉を守るために(偽造書類を防ぐ)、各大学ができる範囲でCSCSEへ協力すべきだと思います。
③Mission (nearly) Impossible
近藤講師が出張のため、オンラインで講演を行いました。その主な内容はAPUの現状、事務局体制、海外活動拠点、入試システム、APUの課題です。APUの課題としては国際競争、大学の財政、人的リソース、国際問題について情報提供がありました。
オンライン講演にもかかわらず、参加者から多数の質問が寄せられました。例えば、横浜国立大学の国際教育課 留学生受入係の村上健一郎さんから「Q1:授業料減免、奨学金の原資はどうしていますか?」「Q2:リスクの話が出ましたが、留学生の在籍管理はどうしているのか?」という二つの質問がありました。それに対して近藤講師の回答は「A1:開学当初は企業からの寄付で40億円あったが無くなりました。今は日本人の学費を原資に回しています。留学生の8割くらいが何らかの奨学金を得ていますが、全額減免は毎年10−20人程度にとどまっています」、「A2:成績をつけるに当たって出席率を見る授業が多い。また別府という土地柄留学生が埋もれにくい」でした。
④早稲田大学における海外リクルーティングとアドミッションの方策
赤松講師は2部に分け、講演を行いました。第1部の早稲田大学における海外リクルーティング及び第2部の国際教養学部AO入学試験(9月入学)改革の主な内容を表3にまとめます。
表3 早稲田大学における海外リクルーティングとアドミッションの方策の概要 | |
第1部の |
1.グローバル・リクルーティング・プロジェクト(GRP)の概説 |
2.エージェントとの協業 | |
3.データ公開への取り組み | |
4.入試制度のローカライゼーション(HKDSE) | |
5.今後の課題 | |
第2部の |
1.国際教養学部の入学試験制度 |
2.AO入学試験(9月入学)改革の必要性 | |
3.Early Bird Admission の導入(2018年9月入学入試) | |
4.今後の課題 |
早稲田大学は2016年からSATの合格者平均点の公開に踏み切りました。元留学生の立場、そして、国際入試を担当する現職という立場から見れば、この情報は非常に役立ちます。現在、日本の各大学は一般入試のデータを公開していますが、留学生入試のデータを公開する大学はわずかです。その理由はデータが少ない、合否の判断は点数だけではないなどです。しかし、国際化が進む中で、今まで通りに情報公開が進まないと、優秀な留学生が他国に流れてしまう可能性があると思います。限りのあるデータをいかに公開するかが今後の課題になるでしょう。
⑤学歴・入学資格判定の作業手順について
星講師は学歴・入学資格判定の作業手順をstep1の出身校調べ、step2の課程・カリキュラム調べ、step3の判定を説明した上で、中国国際部の事例、オフショアスクールの事例を紹介しました。その後、参加者がいくつかのグループにわかれ、講師の用意する資料(卒業証明書、成績証明書、海外のEducation systemなど)を元に、判定作業を行いました。
このワークショップに関しては、参加者から大変勉強になったと評価されていました。大学入試センター研究開発部の花井渋さんは「実際に個別の資格が、日本の法令に合わせて日本の大学入学資格として認められるものなのかどうかという判断を、ワークショップでやってみて、非常に難しいが、今後多様な留学生や国際教育経験者を受け入れ、評価、選抜していくためには必要なプロセスであると感じました。同時に日本の法令も時代に合わせて変わっていかなければいけないと改めて思いました」と感想を語りました。また、大阪大学グローバルイニシアティブ・センターの李明先生も「大変勉強になりました。普段は直接この業務に触れていないが、外国の中等教育機関の属性、課程、カリキュラムの認定方法を勉強して、今後の仕事に役立つと思います。今後、大学院の入学資格判定についてのワークショップも期待しています」とコメントしました。
ワークショップの6時間はあっという間に終わってしまいました。5名の講師からたくさんのことを学びました。また、長時間、少人数のワークショップですので、講師たちはもちろん、コメントをいただいた参加者も含めて他大学の教職員、協会/企業の方とも仲良くなれ、参加者のネットワークを構築することができていると思います。ワークショップの講師、協力してくださった教職員に感謝します。来年度のワークショップにも参加したいと思います。
Workshop D: Strategies for International Student Recruitment and Foreign Credential Evaluation (FCE)
Katsumi SHIRAISHI (Director General, The Asian Students Cultural Association)
Shigetoshi AKAMATSU (Senior Advisor of Admissions, School of International Liberal Studies, Waseda University)
Yuichi KONDO (Dean of Admissions, Ritsumeikan Asia Pacific University)
Comments from a Participant
Wenjing WENG (Kyushu University)
The purpose of Workshop D was not only to help participants increase the number of international student applicants to their institutions, but also to explore measures to attract those with outstanding academic records.
The workshop was divided into five main parts, each facilitated by a different expert. In the first session, Mr. Katsumi Shiraishi, Director General of The Asian Students Cultural Association, explained in detail the qualifications for admission to Japanese universities and then introduced global trends (Tokyo Convention, Lisbon Certification Convention, ISCED). At the end of his talk, Mr. Shiraishi also examined how qualifications should be evaluated in Japan. There were several questions from the audience, including one about Japan’s four-year minimum bachelor programs and non-recognition of foreign AP (advanced placement) credits. It was felt that Japanese universities need to reconsider their entrance requirements and accept students’ AP credits if they wish to attract the best and brightest.
In the second session, Mr. Tao Wei, who is in charge of the Japan Department at the Chinese Service Center for Scholarly Exchange (CSCSE) spoke about 1) the CSCSE overseas academic degree certification service and the problems in certifying Japanese degrees. The most remarkable part of the lecture focused on the forgery of certifications: Due to slow processing on the part of Japanese universities, some international students do not receive their degree certificates in time for job-hunting or before taking national exams in their home countries. Unscrupulous traders therefore see this as an opportunity to forge graduation certificates.
Mr. Yuichi Kondo, Department of Admissions, Ritsumeikan Asia Pacific University (APU), conducted his part of the workshop online. He gave a case study of APU, describing the secretariat system, the overseas operation bases, and the entrance examination systems. He also explored some of the current issues that APU is facing. It was especially interesting to hear about how APU pays for tuition reductions and scholarships for their international students.
In the next part of the workshop, Mr. Shigeru Akamatsu from the School of International Liberal Studies at Waseda University talked about overseas recruiting at Waseda and the reform of the Admission Office (AO) entrance examination in the School of International Liberal Studies. Waseda University has decided to publish their average Scholastic Aptitude Test (SAT) scores. This information is very helpful for international students and for those in charge of international entrance examinations. Currently, Japanese universities publishes general entrance examination data, but only a few publish international student entrance examination data. However, as internationalization progresses, if international information isn’t disclosed, universities risk losing international students with outstanding academic records to other countries.
In the final session, Mr. Akira Hoshi from the Asian Students Cultural Association introduced the procedures for determining students’ educational backgrounds and admission qualifications. Participants then put their learning into practice and, in small groups, were tasked with judging mock graduation certificates and transcripts from various overseas education systems.
This workshop was highly evaluated with participants stating that they learned skills necessary for accepting, evaluating, and selecting diverse international students and staff with international experience. Many had not dealt directly with this work before but felt that the methods learned will be useful for their future work. The six hours of the workshop flew by and I learned a lot from the five lecturers. In addition, it was possible to make friends and build a network with not only the lecturers but also the participants from other universities, associations and companies. I would like to thank the instructor of the workshop and the faculty and staff who cooperated.