RECSIE(国際教育研究コンソーシアム)の理事であり、SIIEJ 2026(国際教育夏季研究大会)の実行委員を務めた太田浩(一橋大学)は、研究室の福元結和、丸山勇とともに、報告書『日本における留学生受入れの経済効果に関する分析―在学中から卒業後の定着まで―』を取りまとめました。本報告書は、RECSIE主催のSIIEJ 2026において、「留学生の受入れはわが国にどの程度の経済効果をもたらすのか?―在学中から卒業後の定着まで―」と題するセッションで行った中間報告を基にしています。当日寄せられたご意見やご助言を踏まえ、データと推計方法を再検討し、分析を精緻化したものです。
報告書(PDF):報告書のリンク
報告書の概要
本報告書は、公開統計データを用い、外国人留学生の受入れによる日本経済への貢献を、在学中(2025年度)と卒業・修了後に国内で就職した新卒初年度(2024年度)の2段階に分けて推計したものです。
1.在学中の経済便益(2025年度):年間約8,213億円
留学生約40.7万人による学費収入約3,835億円と国内生活費支出約5,678億円を合計し、政府・大学・民間団体・企業等による授業料減免や奨学金などの留学生支援資金約1,299億円を控除して算出しました。学費収入のうち、専修学校と日本語教育機関が占める割合は約6割に達しています。
2.卒業・修了後の経済的貢献(2024年度・新卒初年度):年間約531億円
日本国内で就職した元留学生の学歴別・業種別の就職状況と初任給を用いて、新卒初年度の年収総額を約888億円と推計しました。そこから税・社会保険料と国内消費額を算出し、合計約531億円の経済的貢献を見込みました。母国送金率と消費性向を変えた感応度分析では、約477~589億円の範囲となりました。
3.追加的調査(2023年度):仕送りとアルバイト収入
2023年度に高等教育機関と日本語教育機関に在籍した留学生について、母国からの仕送りによる年間収入額を約2,585億円、日本国内でのアルバイトによる年間収入額を約2,040億円と推計しました。仕送りは海外から日本への資金流入を、アルバイト収入は労働を通じた国内経済活動への参画を示しています。ただし、これらの収入は学費や生活費の支出と重複する可能性があるため、在学中の経済便益には加算せず、補足的な指標として位置づけています。
4.政策的示唆と今後の課題
留学生受入れの評価に当たっては、受入れに伴う費用と、その後に生じる便益の双方を捉えることが重要です。奨学金や授業料減免は支給時点では費用となる一方、留学生が卒業・修了後に日本で就職・定着すれば、税・社会保険料の負担や国内消費等を通じた将来的な便益につながり得るため、「投資」としての側面もあります。そのため、支援の必要性が高い留学生(博士課程の学生等)と、在学中・卒業後の社会的・経済的貢献が期待される留学生の状況を踏まえ、目的に応じた重点的な支援を検討する必要があります。
また、留学先としての日本の魅力を高めるには、学費・生活費などの負担だけでなく、卒業後の就職・キャリア形成や定着の可能性にも目を向ける必要があります。留学生受入れの中長期的な投資対効果(ROI)を検証するためには、元留学生の継続就業、帰国・定着、賃金の推移等を把握できるデータの整備が課題です。
なお、本報告書の推計値は、「留学生がいなかった場合」と比較した純増効果ではなく、雇用創出等の波及効果や就職2年目以降の経済効果も含みません。また、在学中と新卒初年度の推計は対象年度・対象集団が異なるため、金額を単純に合算することはできません。
※ 本報告書は今後、学術誌への論文投稿を予定しているため、内容の無断転載・転用はご遠慮ください。